SPICEで学ぶ電気回路の基礎 講座
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0. はじめに
 本講座では、電気回路学習の補助ツールとして回路シミュレータSPICEを使っています。使用するのは、簡単な電気回路です。簡単とは、電源と抵抗、コンデンサ、コイルおよびトランスだけを使った回路です。半導体による能動素子や非線形素子は含んでいません(一部あり)。すぐに動作がわかる簡単な回路例なので、SPICEの使い方、利用方法の基礎学習にもつながります。
SPICEシミュレータは、半導体・回路設計用として企業等での実用上の利用が進んでいますが、回路の学習用としての利用価値も高いツールです。

 以下では、本サイトから入手可能なTopSpiceというSPICEシミュレータの評価版を使用しています。提供している回路図ファイルは、バイナリ形式なのでTopSpice以外では開くことができません。大きなクセのないSPICEですが、以下の記述ではTopSpiceの扱い方を述べていますので、回路図内容や手順についても他のSPICEでは同じ考え方では実行できない場合があります。ご使用のSPICEの手順にしたがって実行下さい。
以下のファイルをダウンロードして試す場合は、回路図ファイルと解析設定ファイルを圧縮してあるので、解凍して同じフォルダに入れて、TopSpiceシミュレータで回路図ファイル(**.sch)を開いて実行して下さい。回路図単一ファイルの場合は、圧縮していないバイナリ ・ファイル**.schそのままのものもあります。ご自分のPCにダウンロードしてから実行してください。
1. 電気回路学で暗黙的に設定されている近似条件
 電磁気に関する自然現象は、すべてマクスウェルの方程式から導き出せます。電気回路も例外ではなく、厳密にいえば、マクスウェルの方程式によって解析されるべきです。
しかし、電界(電場E)や磁界(磁場B)を電気力線や磁力線で考えるとわかるように、3次元的に考察しなければならず、計算で求めることも正確に測定することも簡単ではありません。規模の大きな電気回路であればなおさらです。

 
そこで、電気回路学では、マクスウェル方程式の電場・磁場そのものを扱わず、電磁場の結果として現れかつ測定も容易な、回路内の電圧Vと電流Iを主な検討対象としています。

 ただし、このためには以下の近似条件が成り立っていると仮定しているので注意が必要です。

・電気回路で使用される素子および配線は、理想化された特性を示す。電磁場に関して回路の他の部分や外界と影響を与えあわない。(詳細はここでは省きます。)
 
これらの結果として、回路内の電圧と電流には比例関係が成り立つ。
・特に交流の場合、主に周波数によって決まってくる電圧電流の波長に対して、回路の配線の長さが十分に短い。

 
なお、高周波を取り扱う回路になり電圧電流の波長に対し、配線長が無視できない場合には、配線を理想化したままでは現象にそぐわなくなります。同一配線上ならば電圧電流が均一に分布しているとみなせなくなります。この場合には、配線上にR,L,C,G素子が分布して存在すると仮定して回路解析する方法をとります。これは分布定数回路と呼ばれ、電気回路学の近似的な手法を高周波まで拡張したものといえます。
 さらに周波数が高くなる、ディジタル信号の変化の速度が速いなど、電磁気的影響を無視できないような場合には、分布定数の理論では求められず、現実に則した電磁場による解析が必要となります。
2. 直流回路解析の基礎

 2.1 オームの法則、直並列接続、電圧源と電流源
電 流 電気伝導体の任意の断面を1s(秒)あたりに通過する電荷の量で電流の大きさを決める。1C(クーロン)の電荷が通過した場合、これを1A(アンペア)という。式で表すと、直流の場合、

   電流I(A)=電荷Q(C)/時間t(s)

電荷の量q(t)が時間的に変化する場合は、微分記号を使って

   i(t)=dq(t)/dt
オームの法則 抵抗Rに流れる電流をI、Rの両端間の電圧(電位差)をVとすると、

   V=RI

抵抗に1A(アンペア)の電流を流すとき1V(ボルト)の電位差を生じる抵抗を1Ω(オーム)とする。3つの量のうちの2つが既知の場合、残りの未知量がオームの法則で求められる。
回路理論においては一般的にことわらない限り、抵抗値は、時間経過、自己発熱を含めた温度等の変化によらず変化しないものと仮定する。抵抗両端の電圧値と流れる電流の大きさは比例するとする。この関係は線形性と呼ばれる。
 ただし、精度が要求される回路設計等では、抵抗の温度係数などにより単純な比例関係ではない特性を示すので考慮が必要である。しかし、抵抗値さらには電流値、電圧値が時間経過において一定でない場合でも、ある瞬間においては、R,V,I 間にオームの法則は成り立っている。

抵抗値Rの逆数をコンダクタンスといい、

   G=1/R

と表す。単位はS(ジーメンス)。オームの法則は、

   I=GV     と表せる。

抵抗の直列接続 抵抗を複数個直列に接続し、これに電圧源を接続すると、すべての抵抗に同じ値の電流が流れる。電流が流れることによる電圧降下(抵抗両端の電位差)は、オームの法則により抵抗値に比例するので、各抵抗間の
   「分圧比=抵抗の比」
となる(直列回路の電圧分配則)。
抵抗の並列接続 抵抗を複数個並列に接続し、これに電圧源を接続すると、すべての抵抗に同じ電圧が加わる。オームの法則I=V/Rにより抵抗値が小さいほどその抵抗を流れる電流は大きくなる。各電流の
   「分流比=抵抗の逆比」
の関係となる(並列回路の電流分配則)。
電圧源と電流源 電気回路のエネルギー源として、二つの端子間に希望する電圧を発生させるものを電圧源、二つの端子間につないだ抵抗などの負荷に希望する電流を流し続けるものを電流源という。実在の電圧源や電流源は、内部抵抗をもつために電源につなぐ負荷により希望する電圧や電流が変化してしまう。電気回路理論では、理想電源として内部抵抗0と仮定して扱う。
SPICEによる確認: 直列接続と並列接続
SPICE回路図ファイル Potential_Current_devider.zip (TopSPICE回路図ファイル+解析設定ファイル)
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回路図の作成 図(a)〜(d)の簡単な回路図を同じファイル内に作成します。使用する素子は、抵抗R1〜R8と電圧源V1〜V7と電流源I1、I2です。電圧源V2,4,6,7は特殊で、電圧0Vとし電流計として使っています。波形表示ソフトで表示させる場合は、抵抗を流れる電流を直接指定できますが(I(R1)などとして)、今回は回路図上に電流値を表示するために入れています。
GND(0V)は、SPICEに計算をさせるために必ず一つの閉回路に一つ必要です。どこにあっても構いませんが、電源のマイナス側がもっとも扱いやすいので4つの回路ともそこに入れています。
抵抗は、ダブルクリックして現れるダイアログボックスのValue欄に定数を入力します。電源はDC Specの欄に電圧値や電流値を入力します。電流計はVAというシンボルを配置すれば何も設定は必要ありません。
解析の設定と実行
(DC動作点解析)
SPICEシミュレーションでは、回路図が完成したらどんな解析をするか解析の設定が必要です。しかし、今回は基本の解析なので数値入力での設定の必要はありません。メニューバーより[Simulation]-[Setup...]とクリックして現れるダイアログで、のようにチェックが2つ入っていればOKです。
ツールバーの信号機マークをクリックして解析を実行します。No data found in this fileと表示されますので、OKボタンをクリックします。再び回路図に戻りますので、メニューバーより、[View]-[Bias Voltages and Currents]と選ぶと、回路図上にすべての節点(ノード)電圧と電圧源を流れる電流値が緑色で表示されます。電流の正の方向は、電圧源を+から-に流れる方向です。
ここで行っているSPICE解析は、もっとも基本的なDC動作点解析というものです。(解析設定ダイアログでDC Bias Pointボタンの左にチェックが入っていることが必要。ただし他の解析を行う場合は、必ずその前に自動的に行われる解析なのでチェックの必要なし。)
解析結果からわかること 図(a)では、R1にかかる電圧:R2にかかる電圧=2V:8Vであり、分圧比=抵抗の比が読みとれます。図(b)では、R3の電流:R4の電流=100mA:25mAであり、分流比=抵抗の逆比(400Ω:100Ω)が読みとれます。図(c)(d)は、電流源を使った場合の結果です。電流源の場合も電圧源の場合と同様の法則が成り立っています。
 2.2 回路解析のための各種法則と定理
キルヒホッフの法則 オームの法則は、比較的簡単な電気回路の場合には有効である。しかし、回路の素子数や電源の数が増えて複雑な回路になってくると、オームの法則だけでは解析が難しくなる。
複雑な回路を解析する(任意の箇所の電圧や電流を求める)場合に、基本となる法則がキルヒホッフの法則である。
キルヒホッフの法則には、電流則(第一の法則、KCL:Kirchhhoff's Current Law)と電圧則(第二の法則、KVL:Kirchhoff's Voltage Law)の二つがあり、それぞれ以下の節点解析法や閉路解析法の考え方の基本となっている。

電流則:回路中の任意の節点に流入する電流と流出する電流の総和は0である。(電流は流れの途中の接続点で消滅したり新たに増えたりはしない。) 
   ΣIk=0

電圧則:回路中に任意の閉路(ループ)を考えた場合、その閉路に含まれる起電力の総和と電圧降下(逆起電力)の総和は等しい。 
   ΣEk=ΣRkIk
閉路解析法 回路内の電流を未知数として、いくつかの任意の閉路を仮定する。このとき回路素子でどの閉路にも含まれないものがないようにする。閉路ごとにKVLに基づき回路方程式を立てる。できた多元連立一次方程式を解く。未知の電流が分かれば、任意の節点の電圧も分かる。
節点解析法 回路内の任意の接点を基準点(0V)とし、残りの各節点で不明の電位を未知数とする。各節点ごとにKCLにより方程式を立てる。できた多元連立一次方程式を解く。未知の電位が分かれば、回路のすべての電流も求まる。
重ね合わせの理 電気回路が線形性をもつことから成り立つ。回路内に複数の電源があるとき、回路各部の電流や節点電圧は、電源が一個のみあり他の電源がない場合の電流、電圧を重ね合わせた値に等しい。なお、内部抵抗0の理想電源であるので、回路に影響なく電源のみ削除するには、次の方法に従う。電圧源をなくすには電圧源があった部分を短絡し、電流源をなくすには、その部分を開放とする。電源が複数ある場合に解析を単純化できる。
テブナンの定理
(等価電圧源の定理)

(日本では、鳳(ほう)-テブナンの定理ともよばれる)
電源を含む回路内のある2端子間に現れる電圧と、そこに負荷をつないだときに流れる電流のみを知りたい場合で、他の部分の電圧電流は知らなくて良い場合、この定理を用いて簡単に求めることができる。
希望する2端子間を開放としたとき、端子間電圧をE0、開放端子から回路側をみたときの抵抗値をR0、負荷抵抗値をRとすると、Rを流れる電流 I は、

   I=E0/(R0+R)

なお、開放端子から回路側の抵抗値をみる場合には、回路内の電源も抵抗としてみるので、電圧源は短絡、電流源は開放として計算する。
また、もうひとつの利用法として、次のことが成り立つ。E0とR0が得られたならば、その回路全体が電圧源E0と直列抵抗(内部抵抗)R0の等価な電圧源であるとみなすことができる。
(なお、交流の場合は、抵抗R0,RをインピーダンスZ0,Zと置き換える。)
ノートンの定理
(等価電流源の定理)
テブナンの定理と双対をなす定理。電源を含む回路内のある2端子間に現れる電圧と、そこに負荷をつないだときに流れる電流のみを知りたい場合で、他の部分の電圧電流は知らなくて良い場合、この定理を用いて簡単に求めることができる。
希望する2端子間を短絡したときに流れる電流をI0、開放端子から回路側をみたときのコンダクタンス値をG0、負荷コンダクタンス値をGとすると、端子間に現れる電圧は、

   V=I0/(G0+G)

なお、開放端子から回路側のコンダクタンス値をみる場合には、回路内の電源も抵抗としてみるので、電圧源は短絡、電流源は開放として計算する。
また、もうひとつの利用法として、次のことが成り立つ。I0とG0が得られたならば、その回路全体が電流源J0と並列コンダクタンス(内部抵抗)G0の等価な電流源であるとみなすことができる。
(なお、交流の場合は、コンダクタンスG0,GをアドミッタンスY0,Yと置き換える。)
SPICEによる確認: 重ね合わせの理 
SPICE回路図ファイル Superposition_Principle.zip (TopSPICE回路図ファイル+解析設定ファイル)
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回路図の作成 図(a)〜(d)の電圧源と電流源と抵抗からなる回路を同じ回路図ファイル内に作成します。電圧源VA,VA1〜VA7は、例によって電圧0Vとし電流計として使っています。回路動作上は必要ないものです。
図(a)が最終的に解析したい回路です。図(b)は電圧源V1以外の電源をなくしたものです。重ね合わせの理を成立させるためには、なくす電圧源は短絡、なくす電流源は開放にします。以下図(c),(d)は、それぞれV2のみの回路、I1のみの回路を形成しています。
解析の設定と実行
(DC動作点解析)
この回路もメニューバーより[Simulation]-[Setup...]とクリックして現れるダイアログで、のようにチェックが2つ入っていればOKです。ツールバーの信号機マークをクリックして解析を実行します。No data found in this fileと表示されますので、OKボタンをクリックします。再び回路図に戻りますので、メニューバーより、[View]-[Bias Voltages and Currents]と選ぶと、回路図上にすべての節点(ノード)電圧と電圧源を流れる電流値が緑色で表示されます。電流の正の方向は、電圧源を+から-に流れる方向です。
解析結果からわかること すべての節点と枝(節点と節点を結ぶ同一電流が流れる回路内の線路部分)において、図(a)節点電圧=図(b)節点電圧+図(c)節点電圧+図(d)節点電圧、図(a)枝電流=図(b)枝電流+図(c)枝電流+図(d)枝電流となっているはずです。電流計削除でわかりにくい節点4電圧は、次の式で表され、重ね合わせの理が成り立っています。6.6V(節点4)=0.12V(節点6)+0.32V(節点10)+6.16V(節点17)
SPICEによる確認: テブナンの定理 
SPICE回路図ファイル Thevenin_s_Theorem.zip (TopSPICE回路図ファイル+解析設定ファイル)
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回路図の作成 図(a)のブリッジ回路(ホイートストン・ブリッジ)と呼ばれる回路において、抵抗Rを流れる電流を知りたいとします。この場合、閉路解析法や節点解析法で地道に計算して回路すべての節点電圧、枝電流を求めることもできますが、一箇所の電流だけがわかればいいときは、テブナンの定理を使うと簡単です。なお、GNDはSPICE計算の都合で適当な箇所(この例題では電圧源の−側)に設定します。図(b)では、図(a)の節点2-3間を開放として現れる電圧を求める手順を示しています。図(c)は図(a)の節点2-3間から回路側をみたときの抵抗値を求める手順です。GNDを無視すると、R21とR23の並列接続とR22とR24の並列接続が直列接続されています。図(d)は、テブナンの定理で求められた結果から等価回路化したものです。
解析の設定と実行
(DC動作点解析)
この回路もメニューバーより[Simulation]-[Setup...]とクリックして現れるダイアログで、のようにチェックが2つ入っていればOKです。ツールバーの信号機マークをクリックして解析を実行します。No data found in this fileと表示されますので、OKボタンをクリックします。再び回路図に戻りますので、メニューバーより、[View]-[Bias Voltages and Currents]と選ぶと、回路図上にすべての節点(ノード)電圧と電圧源を流れる電流値が緑色で表示されます。
解析結果からわかること 図(a)は、節点2-3間に接続した負荷抵抗に流れる電流を知りたいもとの回路。図(d)は、テブナンの定理で計算した結果から求められた等価電圧源回路です。同じ負荷抵抗値をつなぐとどちらも8mA、端子間電圧がどちらも400mVとなり、一致していることがわかります。
SPICEによる確認: ホイートストン・ブリッジ 
SPICE回路図ファイル Wheatstone_Bridge.zip (TopSPICE回路図ファイル+解析設定ファイル)
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回路図の作成 テブナンの定理でも取り上げたホイートストン・ブリッジ回路を再度作成します。この回路は、ブリッジの平衡を利用して未知の抵抗値を求めることができ、歪みゲージなどにも利用されています。未知の抵抗をRxとします。シンボルは通常のRでも解析には影響ありませんが、可変させてみるのでRVARシンボルとしています。Rxの初期値は任意ですが、ここでは可変最終値の700Ωとしています。
解析の設定と実行
(DCスイープ解析)
上記でこれまでSPICEのDC動作点解析を行ってきましたが、今回はDCスイープ解析と呼ばれる解析を行います。これは電源電圧、電源電流、抵抗値のいずれかを変動させ、任意の箇所の電圧電流がどう変わるかをみる解析法です。
この例では、Rxの抵抗値を変えていき、電流計の読み値が0となるときのRx値を求めます。
[Simulation]-[Setup...]で解析設定ダイアログが開くので、DC Sweepボタンをクリックし、のようにRxの変動内容を入力します。Save DataはデフォルトのEverythingを選択したままにします。Auto Plotボタンをクリックし、図のように出力変数 I(VA)を入力し、電流計の電流値をグラフ化します。
解析結果からわかること 電流計を流れる電流が0となる条件を閉路解析法やテブナンの定理で求めると、R1・Rx=R2・R3となります。SPICEでは、解析的に回路方程式を解くことはできません。解として数式R1・Rx=R2・R3を導き出すことはできません。できるのは、数値的に解を求めることです。そこで、未知数をスイープさせ条件に合うポイントを求めています。グラフでは、400Ωという解を示すだけでなく、どの程度の感度かなども視覚的に確認できるのがメリットです。
2.3 電力と電力量
電 力 電気のエネルギーは、身近な例だと電気ポット、トースター、電気ストーブなどのように熱エネルギーへの変換、モーターを使って運動エネルギーへの変換、白熱電球やLEDなどの光エネルギーへの変換など、他の種類のエネルギーへの転換が容易で、質が高いエネルギーである。
電力とは、物理学(力学や熱力学)で定義された仕事(単位JまたはN・m)や仕事率(単位J/s=W)を、電気エネルギーに対応させたもので、電気が行う単位時間(1秒)あたりの仕事(つまり電気が行う仕事率)を電力という。単位は、W(ワット)。
電力1W=1A×1Vとなるように、電圧の単位V(ボルト)が決められたので、電力をP(W)とすると、

   電力P(W)=電圧V(V)×電流I (A)

オームの法則より 
   P=VI=RI^2=V^2/R
電力量 電力は、1秒あたりの電気エネルギーの定義であるので、全体でどのくらいの電気エネルギーを消費したかは示していない。電気エネルギーの総量を示すのが、電力量で電力Pと時間tの積で表す。単位は、ワット秒(Ws)。

   電力量W(Ws)=Pt

電力会社が電気使用量に対して課金するために使用する電力量計では、単位はキロワット時(kWh)となっている。
また、電力の定義から1ワット秒=1ジュール(エネルギー、仕事、熱量、電力量の単位)であるので、電力量が抵抗ですべて熱に変換されるとすると、熱量の単位カロリーcalを使って以下の関係が成り立つ。
1Ws=1J≒0.24cal    (1cal≒4.2J   1calは、おおよそ水1gを1℃上昇させるために必要な熱量)
電 圧 ・1アンペアの電流が流れる導体の二点間において消費される電力が1ワットであるとき、その二点間の電圧 (V=W/A)を1ボルトとする。
・電場内で1クーロンの電荷を移動させるのに1ジュールの仕事が必要となるときの、電位差 (V=J/C)を1ボルトとする。
SPICEによる確認: 電力と電力量
SPICE回路図ファイル Power_dissipation.zip (TopSPICE回路図ファイル+解析設定ファイル)
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回路図の作成 電圧源DC10Vに抵抗200Ω各1個というもっとも簡単な回路を作成します。GND(0V)は、電源の−側にします。
解析の設定と実行
(過渡解析)
直流の電力は、時間に関係なく一定値となりますが、電力量Ptは時間の関数なので、横軸を時間にとり、時間経過に連れて電圧電流等がどう変化するかをグラフ化します。このような解析をSPICEでは、過渡解析(Transient 解析)と呼びます。なお、過渡解析の多くは、時間的に変化する信号源がある場合、スイッチオンで充放電が始まる場合などの解析です。(特殊な例が最初になってしまったので付け加えておきます。)
解析の設定は、[Simulation]-[Setup...]で解析設定ダイアログを開き、のように設定します。
・過渡解析(Transient Analysis)の設定ダイアログでは、解析終了時間(Stop time)と目安の刻み幅(Step time)を入力します。
・自動プロット(Auto Plot Data)設定ダイアログでは、グラフ表示したい出力変数をプロット番号ごとに入力します。同一グラフ内に複数のプロットを重ねて表示したい場合は、入力欄に並記します。プロット#3と#4は、電力値と電力量を数式で計算させています。多くのSPICEでは、単純な電圧電流値だけでなく、このように数式や内部関数を使って解析結果を加工して表示することができます。なお、この解析結果の加工は、SPICEシミュレータではなく、波形表示プログラムが行っています。数式は波形表示プログラムへのコマンドということになります。
解析結果からわかること 直流電力500mWで、60秒間抵抗で消費させると、電力量は30W秒=30J≒30×0.24cal=7.2calとなります。これは、水1gを約7.2℃上昇させる熱量です。
この4段目の電力量Wの読み値は、3段目の電力Pのグラフの面積と同じであることがわかります。電力が時間変動する場合、電力量は電力の時間積分で求められることが予想されます。
SPICEによる確認: 最大消費電力
SPICE回路図ファイル Matching_Circuit_V.zip (TopSPICE回路図ファイル+解析設定ファイル)
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回路図の作成 テブナンの定理では、任意の回路を理想電圧源V0とそれに直列に接続された内部抵抗R0によって表す方法を学びました。ある回路がこの等価電圧源回路で表せたとして、これに負荷抵抗RLを接続します。負荷が接続される節点(ノード)名をoutとします。
解析の設定と実行
(DCスイープ解析)
負荷抵抗の値が変化したときの出力outの電圧、負荷に流れる電流、負荷で消費される電力を調べます。解析の設定は、のようにします。
抵抗RLの抵抗値を、DCスイープ解析で1〜1kΩまで刻み幅1Ωでスイープさせます。結果のグラフ表示は、上の段からノードout−GND間電圧、RLを流れる電流I(RL)、抵抗RLで消費される電力Pです。
解析結果からわかること 電圧V(out)のグラフは、V0の10Vを内部抵抗R0と負荷抵抗RLで分圧された値で、上図のような曲線になります。式で求めると、V=V0・RL/(R0+RL)です。電流は式では、I=V0/(R0+RL)です。RLで消費される電力は、これらの積で、P=V0^2・RL/(R0+RL)^2です。この曲線は極大値があるようなので、dP/dRL=0として計算すると、RL=R0のときにPmax=V0^2/(4R0)が得られます。図では、たしかにRL=100ΩでPが最大となっています。
この最大消費電力となる場合、回路が整合(matching)しているといいます。電気エネルギーを無駄なく負荷に供給することを考えるときに必要な条件です。交流回路でも、抵抗値の代わりにインピーダンスとして同様に考えることができます。
電気信号を伝送線路を通して送る場合、モーターを駆動する場合、アンテナで電波を送受信する場合など、いろいろな場面で使う基本的な手段です。また、整合をとり効率よくエネルギーを伝えるということは、電気の分野に限らず、波動・振動を扱う音響や機械などの他の分野でも使われています。
SPICE回路図ファイル Matching_Circuit_I.zip (TopSPICE回路図ファイル+解析設定ファイル)
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回路図の作成その他 今度は、ノートンの定理で示される等価電流源回路に負荷抵抗を接続し、抵抗値を変化させた(100Ω〜10kΩまで100Ω刻み)場合です。負荷抵抗RLを流れる電流は、I=I0・R0/(R0+RL)=I0・GL/(G0+GL)、RL両端の電圧は、V=I0・R0RL/(R0+RL)=I0/(G0+GL)です。消費電力が最大になるのは、GL=G0のときで、Pmax=I0^2/(4G0)です。

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