正弦波と抵抗
(2011-6-28追記あり)
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電気回路学の前提近似条件により、オームの法則は交流でもそのまま成り立つ。つまり抵抗の端子電圧v(t)は、素子を流れる電流i(t)に比例する。
v(t)=Ri(t) または i(t)=v(t)/R ----- 抵抗についての電圧 ・電流の関係式 (オームの法則)
したがって、正弦波を発生する交流電源に抵抗1個を接続し、電源の出力電圧をθ=0として Vm sin(ωt) とすると
i(t)=Vm/R・sin(ωt)
となり、抵抗負荷では電圧と電流の位相は一致している。
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正弦波とインダクタ
(2011-6-28追記あり)
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インダクタは、空心または鉄心やフェライトなどの強磁性体の周りにエナメル線などの導線をコイル状に巻いた構造である。コイルという呼び名も定着している。
アンペール-マクスウェルの法則により、インダクタは、素子を流れる電流i(t)に比例する鎖交磁束Φを発生する。
Φ(t)=Li(t)
そのときの比例定数をインダクタンスL(自己インダクタンス)と定義し、単位をH(ヘンリー)で表す。1Aの電流が流れるとき、1Wb(ウェーバー)の鎖交磁束を発生するインダクタンスが1Hである。
ここで磁束とは、インダクタの作るループを貫く磁場Bの法線成分を、ループ面積にわたって積分したもので、鎖交磁束または鎖交磁束数とは、コイルなどの場合に磁束を巻き数倍したもの。Φ=Nφ(鎖交磁束=巻き数×磁束)
ファラデーの電磁誘導の法則より、インダクタには流れる電流の変化(鎖交磁束の変化)に比例した逆起電力が発生する。
v(t)=dΦ(t)/dt=Ldi(t)/dt ----- インダクタについての電圧 ・電流の関係式
(電流と逆起電力の正の向きを逆にとっている)
インダクタンスは、コイルの形状、巻数、媒質などによって決まるコイル固有の値である。導線の太さ、長さ、巻き数、コイルの直径、コアの透磁率などを始めとして、パラメータが多い。
●電気回路学でインダクタを使用する場合は、次のような近似により理想的な素子として取り扱う。
・インダクタ電流で発生する磁場は回路の他の部分と影響を与えあわない。
・インダクタを構成する導線は電気抵抗を持たない。
・導線表面の電荷は無視できて、電場を作らない。
インダクタに正弦波電圧 v(t)=Vm sin ωt を加える場合を考える。
流れる電流の式は、インダクタの電圧 ・電流の基本式の両辺を積分して
i(t)=1/L ∫v(t)dt
より i(t)=-Vm/(ωL) cos ωt=Vm/(ωL) sin(ωt-π/2)
また、逆に電流を基準にして、インダクタに正弦波電流 i(t)=Im sin ωt を加えると、
インダクタ両端の電圧v(t)は、
v(t)=ωLIm cos ωt=ωLIm sin(ωt+π/2)
これらの式より、インダクタ素子の両端の正弦波電圧と素子を流れる正弦波電流の位相は、電圧よりも電流がπ/2(rad)遅れていることが分かる。
これらの式に電圧と電流の振幅比として現れている ωL は、直流の抵抗と同じ意味を持ち単位はΩ(オーム)となり、誘導性リアクタンスと呼ばれる。
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正弦波とキャパシタ
(2011-6-28追記あり)
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キャパシタは、2枚の導体板をわずかな間隔を空けて向かい合わせ、間には誘電体をはさんだ構造である。コンデンサという呼び名も普及しているが、英語圏では別の意味であり使われていない。
2枚の導体板間の一方にプラスの電荷、他方に同量のマイナスの電荷があるとする。導体間の電位差Vは、小量の電荷を一方の板から他方の板まで運ぶために必要な仕事を単位電荷あたりに直したものだから、(電場の)ガウスの法則を使って、
V=Ed=σ/ε0・d=Q/ε0A・d
Qの式にして、 Q=ε0A/d・V
比例定数をCとおき、まとめると、
Q=CV
キャパシタは、蓄えられる電荷が素子両端電圧に比例する。
比例定数Cをキャパシタンス(容量,静電容量)と定義し、単位をF(ファラッド)で表す。端子間電圧が1Vのとき、蓄えられる電荷が1C(クーロン)のキャパシタのキャパシタンスが1Fである。
また、上式の両辺を時間で微分すると
dQ/dt=dq(t)/dt=i(t)=C・dv(t)/dt 交流を考えてQ→q(t),V→v(t)とする。
つまり、キャパシタに加わる電圧と電流には次の関係がある。
i(t)=C・dv(t)/dt ----- キャパシタについての電圧 ・電流の関係式
●電気回路学でキャパシタを使用する場合は、次のような近似により理想的な素子として取り扱う。
・キャパシタを構成する極板も引き出し用の導体も完全導体とする。
・極板間の絶縁は完全で電荷の流れはないとする。
・二つの極板間は近接していて、片方の極板から出る電気力線はすべて他方の極板で終わる。
・二つの極板上には常に異符号の電荷が等量存在し、導線の表面上の電荷に比べてはるかに大きい。
・キャパシタの近くに磁界はない。
キャパシタに正弦波電圧 v(t)=Vm sin ωt を加えると、
i(t)=ωCVm cos ωt=ωCVm sin(ωt+π/2)
逆に、正弦波電流 i(t)=Im sin ωt を加えるとすると、
基本式の両辺を積分して
v(t)=1/C ∫i(t)dt
より、キャパシタ両端の電圧は、
v(t)=Im/(ωC) cos ωt=Im/(ωC) sin(ωt-π/2)
これらの式より、キャパシタ素子の両端の正弦波電圧と素子を流れる正弦波電流の位相は、電圧よりも電流がπ/2(rad)進んでいることが分かる。
これらの式に電圧と電流の振幅比として現れている 1/ωC は、直流の抵抗と同じ意味を持ち単位はΩ(オーム)となり、容量性リアクタンスと呼ばれる。
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SPICEによる確認: 電圧源と電流源に抵抗を接続したときの正弦波波形(横軸は時間)
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SPICE回路図ファイル |
Alternating_Current_R.zip (TopSPICE回路図ファイル+解析設定ファイル) |
クリックで拡大
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回路図の作成 |
上図の簡単な回路図を作成します。使用する素子は、電圧源V1と電流源I1とそれぞれに接続される抵抗2個です。電圧源は、Vシンボルのうち外観上の理由でVSINを選んでいます。回路図上でシンボルをダブルクリックして開くダイアログで、発生させる交流電圧の仕様を設定します。正弦波なのでTRANsient
Specの欄のSINを選びます。正弦波の上下の中心となるオフセット値0V、振幅値1V、周波数1kHzを入力します。電流源も同様にして、オフセット値0A、振幅値10mA、周波数1kHzとします。
交流といえどもGND(0V)は、SPICEに計算をさせるために必ず回路に一つ必要です。直流に準じて、電圧源・電流源の基準側を決めGNDとします。
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解析の設定と実行
(過渡解析)
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交流電源の周波数を1kHzとしていますので、3周期くらいの波形を表示するために、解析の終了時間を1周期の3倍の3msとします。
観測する箇所はノード1とノード2と命名した節点の電圧V(1),V(2)および負荷抵抗R1を流れる電流I(R1)と負荷抵抗R2を流れる電流I(R2)です。V(1),V(2)という電圧の基準は指定がない場合、常に0Vです。V(1)という場合、V(1)-V(0)の電位差を表しています。
グラフをプロットするテクニックとして、グラフが重なってしまうような場合は、表示する段を分けます。ここで使っているTopSPICEの波形表示プログラムには、段を指定するコマンドがあるのでこれを使います。これは解析設定と同じファイルに保存されるので、一度設定すればOKです。
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解析結果からわかること |
SPICEの過渡解析で得られる解析結果のグラフは横軸が時間なので、正弦波の波形としては、正弦波のところで出てきた図(b)と同様の横軸時間のグラフが表示されます。これは、回路図の任意の節点(ノード)の電圧や素子に流れる電流を観測すると、時間の経過にしたがってどう変化しているかを示しています。オシロスコープで観測しているのと同じです。これは当然ながら回路の導線上に沿ってこのような波形が乗っているわけではありません。また、電圧電流は配線導体や素子内の現象ですので、波形自体は横波として表示されていますが、便宜上のもので実態ではありません。
抵抗負荷の場合、電圧電流が時間とともに変動してもオームの法則がそのまま成り立っています。得られる正弦波波形の位相は一致しています。 |
SPICEによる確認: 電圧源と電流源にインダクタを接続したときの正弦波波形
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SPICE回路図ファイル |
Alternating_Current_L.zip (TopSPICE回路図ファイル+解析設定ファイル) |
クリックで拡大
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回路図の作成 |
今度は抵抗負荷の代わりにインダクタを接続します。上図の電圧源の方の回路で、インダクタに直列に非常に小さな値の抵抗を接続してあります。これは、内部抵抗が0という理想電圧源と寄生成分なしの理想インダクタという組み合わせのため、直列抵抗なしでは流れる電流が無限大となり解析エラーとなってしまうからです。SPICEの計算に影響を与えない程度の小さな値の抵抗値を入れると、エラーがでなくなります。現実の回路では、元々いろいろな寄生成分があるのでこのようなことにはなりません。
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解析の設定と実行
(過渡解析)
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過渡解析は、基本的には終了時間の設定だけです(TopSPICEでは、刻み時間の目安も必要)。
ただし、SPICE解析の細かい話になってしまいますが、これらの回路は、単純に上記の不定積分式を解くことになります。バイアスをうまくかけて積分定数を0にしなければなりません。電圧源と電流源の位相を90°進めたのと、L1の初期電流を0Aにしたのは、この対策のためです。
過渡解析で解析時間を多少犠牲にしてもステップ時間(刻み幅)の上限を指定して、計算精度をあげたいという場合があります。下記のように数値をカーソルで呼んだりする場合です。このような時は、図のように最大ステップ時間(この図ではStep ceiling:)を設定します。この例では、計算の時間刻み幅が最大でも3usecになります。
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解析結果からわかること |
純粋なインダクタンスに正弦波信号を加えると、インダクタ両端の電圧と流れる電流の位相は、電流が90°遅れる。
誘導性リアクタンスは、この回路の場合 ωL=2πfL=6.283・・Ωとなります。正弦波の振幅値で計算すると、Im=1V/6.283Ω=159.15mAとなり解析結果と一致していることが確認できます。 |
SPICEによる確認: 電圧源と電流源にキャパシタを接続したときの正弦波波形
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SPICE回路図ファイル |
Alternating_Current_C.zip (TopSPICE回路図ファイル+解析設定ファイル) |
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回路図の作成 |
今度は電源の負荷としてキャパシタを接続します。今回は、電流源回路に工夫が必要です。上図の電流源回路で、キャパシタに並列に非常に大きな値の抵抗を接続してあります。これは、寄生成分なしの理想キャパシタは完全な絶縁体なので、内部抵抗無限大の電流源では、ノード2側の電位を決めることができず、解析エラーとなってしまうからです。SPICEの計算に影響を与えない程度の大きな値の抵抗値を入れて、エラーを回避します。現実の回路では、元々いろいろな寄生成分があるのでこのようなことにはなりません。
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解析の設定と実行
(過渡解析)
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インダクタの回路と同様にSPICE解析の細かい話になってしまいますが、こちらの回路でも、単純に上記の不定積分式を解くことになります。バイアスをうまくかけて積分定数を0にしなければなりません。電圧源の位相を90°進めたのと、C2の初期電圧を-1Vにしたのは、この対策のためです。電流源の振幅が6.28mAと中途半端な値なのは、電圧振幅を電圧源と同じ1Vにするためです。
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解析結果からわかること |
純粋なキャパシタンスに正弦波信号を加えると、キャパシタ両端の電圧と流れる電流の位相は、電流が90°進む。
容量性リアクタンスは、この回路の場合 1/ωC=1/(2πfC)=159.15・・Ωとなります。正弦波の振幅値で計算すると、Im=1V/159.15Ω=6.283mAとなり解析結果と一致していることが確認できます。 |