LTspiceに外部の部品モデルを組み込む


 LTspiceシミュレータに組み込まれている部品を使うのは、他のSPICE同様、簡単です。回路図に、型名がつけられたシンボルを配置するか、シンボルを配置してから型名や仕様を設定します。
やっかいなのは、LTspiceに組み込まれていない部品モデルをシミュレーションしたい場合です。色々なモデルを組み込むには、シンボルとモデルの区別など、ある程度の基礎知識が必要です。
以下に、まず、モデルは大きく3種類に分けることができるなどの要点を簡単にまとめます(1~3項)。次に、モデルを追加するには、モデルの種類ごとに、どう処理すれば良いかを説明します(4項)。
シンボルが置いてあるのは、モデルの種類に関わらず標準では、以下の場所です。回路図キャプチャのメニューより、Edit-->Componentをクリック、またはツールバーのANDアイコンをクリックして、選択します。
C:¥Users¥ユーザー名¥Documents¥LTspiceXVII¥lib¥sym
 

  1. 組み込み基本モデル(回路図上のシンボルにおいて直接パラメータや式を指定するモデル)

    (1) RLC受動素子の設定可能パラメータ
    R:抵抗値、tc1, tc2, temp
    L:線形インダクタ/フェライトビーズ インダクタンス値, Rser, Rpar, Cpar, m, ic, tc1, tc2, temp
     非線形インダクタ Hc, Br, Bs, Lm, Lg, A, N
    C:キャパシタンス値, Rser, Lser, Rpar, Cpar, RLshunt, m, temp, ic

    (2) その他の素子
    B(任意制御電源), E(電圧制御電圧源), F(電流制御電流源), G(電圧制御電流源), H(電流制御電圧源), I(独立電流源), K(インダクタ結合,LTspiceではシンボルなし), T(無損失伝送線路), V(独立電圧源)
    *これらの素子はモデルの新規追加の対象とはなりません。ただし、シンボルを新しいサブサーキットのシンボルとして、流用することはできます。

  2. デバイス・モデル(.MODEL記述によりパラメータ指定するモデル)

     回路図シンボルとは別に、ドットコマンド.MODELにより始まる構文でできたモデル・ファイルまたはライブラリ・ファイル(複数のモデル記述が併記されている)が、用意されていなければなりません。
    モデルの保存場所は標準では、
    C:¥Users¥ユーザー名¥Documents¥LTspiceXVII¥lib¥cmp
    構文には、SPICEエンジンで規定されたパラメータが必要です。
    A(LTspice独自の特殊機能), D(ダイオード), J(接合型FET), M(MOSFET), O(有損失伝送線路), Q(バイポーラ・トランジスタ), S(電圧制御スイッチ), U(RC分布線路), W(電流制御スイッチ), Z(MESFETまたはIGBT)

  3. サブサーキット(.SUBCKT記述のモデル)

     回路図シンボルとは別に、ドットコマンド.SUBCKTにより始まる構文でできたモデル・ファイルまたはライブラリ・ファイルが、用意されていなければなりません。
    モデルの保存場所は標準では、
    C:¥Users¥ユーザー名¥Documents¥LTspiceXVII¥lib¥sub

    サブサーキットの2つの利用方法
    ・ライブラリ・ファイル型
    ライブラリ・ファイルまたはモデル・ファイルと呼ぶネットリスト形式で記述されたファイルを、回路図シンボルと関連付けて使用します。通常の使い方です。
    ・階層化型
    サブサーキット部を、ネットリスト形式でなく、回路図形式で作成します。上層の回路図中に配置したシンボルをダブルクリックすると、階層化されている下層の回路図が表示できます。サブサーキットを、ヴィジュアル化することで、回路を読みやすくできる、修正がし易くなるなどのメリットがあります。下層の回路図には、上層のシンボルのピンになるポート(または端子)が存在する必要があります。上層のシンボル名(***.asy)と下層の回路図名(***.asc)は同じでなければなりません。
     作成の仕方は、トップダウン、ボトムアップがありますが、ここではボトムアップを紹介します。下層の回路図をピンをつけて描き、保存します。この回路図について、回路図キャプチャのメニューよりHierarchy-->Create a New Symbolでシンボルを作成します。シンボルは、管理上、上層下層の回路図と同じフォルダに保存するのが良いと思います。このシンボルは、下層の回路図と関連付けられているので、このシンボルを上層の回路図で配置すると、階層化が完成します。


  4. モデルタイプごとの新たなモデルの追加方法

    (1) 組み込み基本モデル
     デフォルトで下記のフォルダに保存されている下記のファイルを、LTspice内でダブルクリックして開くと部品データベース・エディタ(筆者造語)が起動します。ウィンドウ内で右クリックして、データベースに追加編集します。
    C:¥Users¥ユーザー名¥Documents¥LTspiceXVII¥lib¥cmp

    standard.bead :フェライトビーズ
    standard.cap :キャパシタ
    standard.ind :インダクタ
    standard.res :抵抗

    これらのモデルを追加した場合でもモデルのシンボルは、新たに作成する必要はありません。 当該シンボルを回路図に配置したら、右クリックし、現れたダイアログ・ボックスで追加したモデル名を選びます。

    (2) デバイス・モデル(.MODEL記述によりパラメータ指定するモデル)
     デフォルトで下記のフォルダに保存されているモデル・ライブラリをLTspiceのテキスト・エディタ(一般的なエディタも可能)で開き、追加編集をします。 下記ファイルをLTspice内でダブルクリックして開くと、LTspiceのテキスト・エディタが起動するので、通常のテキスト・エディタと同様にして追加編集します。 .MODEL構文には、SPICEエンジンで規定されたパラメータが必要です。パラメータはSPICEにより微妙に違っている場合があるので、ユーザーが追加したモデルには問題がないか、シミュレーション実行後、 エラーログ・ファイル等で確認します。
    C:¥Users¥ユーザー名¥Documents¥LTspiceXVII¥lib¥cmp

    standard.bjt  :バイポーラ・トランジスタ
    standard.dio  :ダイオード
    standard.jft  :接合型FET
    standard.mos :MOSFET

    これらのモデルを追加した場合でも、モデルのシンボルは、新たに作成する必要はありません。 当該シンボルを回路図に配置したら、右クリックし、現れたダイアログ・ボックスで追加したモデル名を選びます。

    (3) サブサーキット
     デフォルトの設定の場合、以下のフォルダ内に、新たに追加したいモデル・ファイルまたはモデル・ライブラリを保存します(***.lib)。 既存のモデルと区別したい場合は、subフォルダ内に新しいフォルダを作ります。
    C:¥Users¥ユーザー名¥Documents¥LTspiceXVII¥lib¥sub

    特にサブサーキットでは、ネットリスト部分はデバイス・モデルのように構文に制約がないので、新規作成時には、注意が必要です。モデルの.SUBCKT構文で示されたピンの順番と数が、モデルとシンボルで一致していなければなりません。ピン数の不一致は、すぐエラーになり分かりますが、順番の間違いは、動作結果でしか判断できません。

    (4) LTspiceにおけるサブサーキット用のシンボルの作成
    ・組み込み基本モデルまたはデバイス・モデルでは、そのシンボル形状をそのまま使って、サブサーキット化できます。
    まず、希望する部品シンボルを、回路図に配置します。 そのシンボルによって、やり方は2種類に分かれます。シンボル上で、単に右クリックするか、「ctrl+右クリック」します。するとComponent Attribute Editorダイアログが開きます。 そこでPrefixの項目を、R,L,C,D,QN,QP,MN,MP...などの素子名から、Xに書き換えます。そして、SpiceModelの項目に、対応させたいモデル名を入力します。
    ・元々サブサーキット構成となっているモデルでは、シンボルを回路図に配置し、右クリックしただけで、Component Attribute Editorダイアログが開くものもあります。 Prefixの項目は、すでにXとなっていますので、SpiceModelの項目に、対応させたいモデル名を入力します。 どうやってもComponent Attribute Editorダイアログが開かないシンボルもあります。そのシンボルは、他のモデルに流用することはできません。 最も機会の多いであろうOPアンプの場合も、既存の型名のモデルを別名には、変更できません。 この場合は、3ピンのモデルならばopamp、5ピンのモデルならばopamp2というシンボルを使ってください。ピンの順番は一般的な順番となっているので、モデル記述が違っていたら、シンボルまたはモデル側で編集し一致させます。 ピン数が6ピン以上などの場合は、ゼロからシンボルを作成しなければなりません。


    参考資料: (1)(株)マクニカ オンラインセミナー「LTspiceへ部品モデルをインポートする方法を学んでみよう!」 (2) 電子回路シミュレータPSpiceリファレンス・ブック(森下勇著、CQ出版社)

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