SPICEで学ぶ電気回路の基礎 講座
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11. 複素周波数
 
 過渡現象の解析方法として、9章で通常の微分方程式の解法、10章でラプラス変換を使った解法を学んだ。ラプラス変換については、数学的な手順を述べただけであった。
 ラプラス変換に出てくる変数 t と s は、それぞれ数学的には実数、複素数という条件しか与えられないが、回路解析などの分野で、つまり回路方程式の解析に使用する場合、t は時間である。s は、s=σ+jωとおかれ、物理的な意味を考えると周波数の次元をとり、複素周波数と呼ばれる。本章では、複素周波数の意味を考え、伝達関数まで拡張して解析に利用する方法を検討する。

11.1 複素周波数とは
複素周波数の意義
 第4章で学んだように、オイラーの公式
  
を使いその虚数部(実数部でも可)をとると約束して、定常的な正弦波振動を以下のように、指数関数表示することができた。
  
 または 
  
その結果、その後の計算が簡単になり、それが時間領域(第4章)および周波数領域(第5章)において、活用できるというテクニックだった。

ここで、これまで考えていた純虚数(jω)→ 実数+虚数(σ+jω)と拡張してみる。すると、
  

とオイラーの公式を使い変形できる。この右辺を観察すると、最初のe^(σt)の部分は、σの正負により指数関数的な増加または減衰を示し、e^(jωt)の部分は、定常状態と同じであり正弦波振動を示していると考えられる。

これは、過渡信号の一般的な表現式を示しており、jωに代えてσ+jωという変数を使うことにより、定常正弦波だけでなく過渡状態も扱えるのではないかという予想が可能である。
  
  

定常正弦波電圧をフェーザ表示(時間 t がつく項を除き、位相のみを残した複素数領域における極座標表示)すると、
  
ただし、定常正弦波では、電圧電流ともに大きさを実効値Ve, Ieとしたが、ここでは過渡現象を考えるので、電圧電流の大きさは、振幅値Vm, Imとする。
これに複素周波数に対する時間の成分 を掛けて虚部を取り出すとすると、
  
 この式を基本とすると、定常正弦波のみを考える場合は、σ=0とすると、e^(0・t)=1となり第4章の複素記号法の考え方が、そのまま使える。

 また、ω=0とすると、正弦波の振動成分がなくなり、定数sinθのみが残り、時間の指数関数で表され、過渡現象が表現できている。
  

受動素子の電圧電流の関係式を複素周波数で表す インダクタの電圧電流の関係式は、
  
この素子に、以下の電流を流すと
  
  ただし、とする。

インダクタの両端電圧は、I を使うと
  
と表される。V を使うと
  
に対応する。したがって、上記2式同士を比較して
-------(11.1)

  同様に、キャパシタの電圧電流の関係式は、
  
キャパシタの両端電圧は、I を使うと
  
したがって、
------(11.2)

抵抗素子では、複素周波数に関係なく
--------(11.3)
過渡現象解析に複素周波数を導入すると
 電気回路で使われる受動素子単体のインピーダンス、アドミッタンスや受動素子に発生する逆起電力vや流れる電流 i は、複素周波数 s を使って下表のように表すことができる。

○定常正弦波における電圧電流の瞬時値とフェーザ表示の対応
瞬時値
 
フェーザ表示
フェーザ表示の意味
 (Veは実効値電圧)
(Ieは実効値電流)

○過渡現象における電圧電流の瞬時値とフェーザ表示の対応
  定常正弦波で使ったフェーザ表示を、複素周波数により過渡現象まで拡張する。

瞬時値
 
フェーザ表示
フェーザ表示の意味
(Vmは振幅値電圧)
(Im は振幅値電流)

○複素周波数を使った微分積分演算
演 算 記 号 複素領域
微 分 sを掛ける
積 分 sで割る

○複素インピーダンス・複素アドミッタンスへの変換
素子の種類
 
インピーダンス Z[Ω]
アドミッタンス Y[S]
抵抗 R(Ω)
R
1/R = G
インダクタ L(H)
sL
1/sL
キャパシタ C(F)
1/sC
sC

これらの式をキルヒホッフの法則により、求めたい回路に対応させる。

【結論】
 電気回路において、周波数や振幅が変化しない正弦波信号が加えられ続けている場合などの定常現象のみを検討する場合、時間領域から周波数領域に置き換えることにより簡略化できた。
定常現象に加えて過渡現象も検討する場合には、複素周波数の領域まで拡張して考えることにより、より一般性を持って定常現象、過渡現象が解析できるようになる。
 
11.2 伝達関数
たたみ込み積分とは  たたみ込み積分(合成積)は、前章で簡単に紹介したが、回路理論の他、システム論や制御理論で重要な演算である。なお、たたみ込み積分の概念自体は、ラプラス変換とは独立しているものである。

 過去のある瞬間にf1という事象が起こり、それが時間的変化を伴う増幅や減衰という一定の要因f2により変化させられて、結果が現在現れると仮定できる何らかの仕組み(システム)があると考える。(注1)

 過去の事象が複数回発生したときには、結果は複数回の事象の加算と考えられる。これは時間で積分することに等しい。現在時刻をtとして、その結果を考える。時刻τに発生した事象f1(τ)に対して、発生時から現在までの時間経過がt-τとなるので、f2(t-τ)で表される増幅や減衰を伴う変化が加えられるので、結果として現れる影響はf1(τ)f2(t-τ)で表される。複数の事象を考慮すると、全体の結果は、f1(t), f2(t)が因果律を満たすならば、任意の事象が起こった時刻τについての積分をτ=0からτ=tまで行えば良いので、下記式で表される。

なお、f1(t-τ)f2(τ)としても結果は同じになる
(理由およびたたみ込み積分のより分かりやすい解説は下記参考サイトを参照)。  
 
これを一般的に表すと、


参考:「初心者用畳み込み(たたみこみ)解説」 東北工業大学 情報通信工学科 中川研究室
  この解説で考えているシステムは「人生」。


(注1):たたみ込み積分が成り立つシステムの厳密な定義は、線形時不変なシステム。

線形性とは、入出力が比例関係にあること。詳しく述べると、色々な入力があったときに出力は単独の入力に対するそれぞれの出力の足し算で表せること、つまり重ね合わせができることである。
時不変性とは、時刻によりシステムの特性が変動せず、入力の時刻が変わっても出力がその分シフトされるだけで現れることである。
たたみ込み積分のシステム解析(回路解析)への応用  あるシステム(ここでは回路)に、単位インパルスδ(t)を加えたときの出力をh(t)とする。h(t)は、インパルス応答と呼ばれる。単位インパルスを加える時刻をτとすると、現在時刻 t における出力は時間経過 t-τが加味されて、h(t-τ)となる。別の言い方をすると、単位インパルスを加える時刻をτ遅らせると、出力もτ遅れるので、h(t-τ)で表される。従ってh(t)は、時刻τに関する積分を使って以下の式で表される。これは、事象が一度のみのたたみ込み積分と言うことができる。
  

 次に、このシステムに単位インパルスではなく、任意の波形 x(t)を入力することを考える。x(t)は、時刻τのx(t)の値x(τ)と単位インパルスのたたみこみ積分とみなすことができ、以下の式で表される。x(τ)倍された単位インパルスを時間をずらしながら加算したものと考えられる。
  
 x(t)をインパルス応答h(t)のシステムに入力したときの出力y(t)とすると、上2式より次のたたみ込み積分が成り立つことが導き出される。現在時刻 t における出力波形y(t)は、過去の時刻τにおける入力波形x(τ)と回路の応答 h(t-τ)を使った以下のたたみこみ積分で表される。なお、t<0においてx(t)=0、h(t)=0である因果律を満たすならば、積分期間はτ=0〜∞として構わない。
  

伝達関数  ここで、たたみ込み積分の一般論から話題を転換する。
上記のたたみ込み積分で表される出力関数 y(t) について、ラプラス変換を行ってみると、
----- (11-4)


----- (11-5)

と簡単な形で表すことができた。
ここで、X(s)は入力信号のラプラス変換、Y(s)は出力信号のラプラス変換である。

このH(s)を、伝達関数と呼ぶ。これは、(11-4)式の最後の部分から分かるように、対象とするシステム(または回路)のインパルス応答 h(t)のラプラス変換に等しい。

一度そのシステムの伝達関数を求めると、入力信号が変わった場合にも、その伝達関数を計算に使用できるという利点がある。

伝達関数は、特性や安定性を解析するのに使用されるが、対象とするシステムは1入力1出力に限られる。
また、伝達関数を求める場合には、システムのすべての初期値は0でなければならない。この理由は、0でない初期値を認めると、(11-5)式においてY(s)が初期値によって変わることになり、同一システムで伝達関数が違うものになってしまうという矛盾から説明できる。

極(pole)と零点(zero point)  伝達関数H(s)が無限大に発散する点を s の値で示し、これを(pole)という。
伝達関数の分母 = 0 という方程式は特性方程式と呼ばれ、その解を、そのシステムの極、あるいは伝達関数の極という。
極の位置により、過渡応答(自然応答)が決定される。

 また、伝達関数が0になる点を s の値で示し、これを零点(zero point)という。
零点とは、それに対応する周波数の駆動で信号応答が伝わらす、出力が0となることを意味する。
二端子対回路における伝達関数の種類  回路解析における伝達関数の入力と出力信号は、定義を明確にすれば回路のどの部分の電圧・電流いずれを使っても構わない。
ただし、対象を二端子対回路に限定した場合、明確化のために下表のように呼ぶ場合もある。
s は、複素周波数である。

 電圧比伝達関数
 電流比伝達関数
 伝達インピーダンス関数
 伝達アドミッタンス関数
伝達関数のまとめ ・あるシステムを考えるときに、そのシステムをブラックボックスとして、任意の入力に対してどのような出力が得られるかを示しているのが伝達関数である。伝達関数が分かっていれば、入力信号のラプラス変換が得られれば、出力を計算できる。
・別の言い方では、初期状態が0のときの入出力信号のラプラス変換の比を伝達関数と呼ぶ。伝達関数はインパルス応答のラプラス変換であるという言い方もできる。
・伝達関数H(s)は、次の式で表される。この式は、入力信号のラプラス変換をX(s)、出力信号のラプラス変換をY(s)とすると、たたみ込み積分の両辺をラプラス変換することにより得られる。

・変数として複素周波数 s=σ+jω を使用することにより、伝達関数が分かればシステムの過渡応答、周波数応答の両方について解析することができる。
・伝達関数をラプラス逆変換せずに s領域のまま解析することでも、多くの情報を得ることができる。
 -伝達関数を部分分数展開することで,インパルス応答を発散・減衰・振動などの基本要素に分解できる。
 -伝達関数の分母 = 0 とした方程式 (特性方程式) の解の複素平面上での位置が,それらの基本要素の挙動に対応している。
 -伝達関数で s=jωと置き換えると周波数応答が得られる。

参考:「やる夫で学ぶディジタル信号処理」 東北大学 大学院情報科学研究科 鏡 慎吾 准教授

【SPICEによる確認の前に】

 市販の主なSPICEには、制御電源にラプラス変換機能が付いています。制御電源にs関数の式を記述し、過渡信号入力を回路に接続することにより、設定したs関数の式を伝達関数として使用できます。このラプラス電源は、複素周波数 s を変数としているので、過渡解析とAC解析で使用できます。出力は、時間関数と周波数関数として得られます。

 ただし、ほとんどのSPICEにおいて、過渡解析ではたたみ込み積分を使っているため、コンピュータに大きな負荷となりシミュレーション時間がかかる場合や精度が悪くなる場合があります(例:RLC直列回路の過制動状態の解析)。解決策としては、TopSpice製品版に付属するような、状態空間法モデルを使用する方法があります。
 
 前章で学んだように単位インパルス関数のラプラス変換は、「1」です。したがって上記伝達関数の定義から、ある回路に単位インパルスを入力すると、出力はその回路の伝達関数を逆ラプラス変換したものです。つまり単位インパルスを入力した場合の出力波形は、伝達関数そのものを時間や周波数領域で表したものになります。

下記のファイルの後半でこの確認をしますが、単位インパルスは現実には実現不可能な関数(超関数の一つ)なので、SPICEでできる最大限の近似波形を作っています。またラプラス電源自体も、過負荷となる入力に対しては、理想的には動かないようです。以下の例では、TopSpiceでうまく動いた例を取り上げましたが、他のSPICEでは動かない場合もあります。その逆もありえますが、状態空間法モデルが使えればほとんどの場合、理論通り動作するようです。
SPICEによる確認: RC直列回路の伝達関数
SPICE回路図ファイル Transient_Response_RC_Laplace.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
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回路図の作成 前章で作成した回路図ファイルでは、(1)SPICEアルゴリズムによる解析と、(2)計算で求めた数式を入力したビヘイビア電源の比較をしました。これに、(3)ラプラス電源を使った解析を追加します。ラプラス電源には、RC直列回路の電圧比伝達関数(1/(CRs+1))と伝達アドミッタンス関数(s/(Rs+1/C))を記述します。これは、sを使って直接インピーダンスを求めたものです。
Demo版には、状態空間法モデルが付属されていないので、回路図でX1とX2の部分は、ディスエーブルとなっています。製品版では、メニューバーにて[Edit]-[Enable All]とクリックしてこの部分をイネーブル状態にして実行してください。
解析の設定と実行 過渡解析とAC解析の設定をします。2番目の数式を使ったビヘイビア電源は、時間領域の計算なので当然AC解析には、使えません。解析実行後現れるダイアログで、TRANSIENTを選ぶと過渡解析結果が表示され、(1)〜(3)の電圧電流のグラフが得られます。波形表示プログラムのメニューバーより[Plot]-[Auto plot]とクリックし、AC Sweepを選ぶとAC解析結果が表示され、(1)と(3)の電圧電流の振幅と位相のグラフが得られます。
解析結果の検討 3種類の求め方により得られた電圧電流のグラフは、ほぼ重なり、求めたラプラス変換式が正しいことが分かります。
SPICEによる確認: RL直列回路の伝達関数
SPICE回路図ファイル Transient_Response_RL_Laplace.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
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回路図の作成 前章で作成した回路図ファイルでは、(1)SPICEアルゴリズムによる解析と、(2)数式入力したビヘイビア電源の比較をしました。これに、(3)ラプラス電源を使った解析を追加します。ラプラス電源には、RL直列回路の電圧比伝達関数(s/(s+R/L))と伝達アドミッタンス関数(1/(Ls+R))を記述します。
Demo版には、状態空間法モデルがついていないので、回路図でX1とX2の部分は、ディスエーブルとなっています。製品版では、メニューバーにて[Edit]-[Enable All]とクリックしてこの部分をイネーブル状態にして実行してください。
解析の設定と実行 過渡解析とAC解析の設定をします。2番目の数式を使ったビヘイビア電源は、時間領域の計算なので当然AC解析には、使えません。解析実行後現れるダイアログで、TRANSIENTを選ぶと過渡解析結果が表示され、(1)〜(3)の電圧電流のグラフが得られます。波形表示プログラムのメニューバーより[Plot]-[Auto plot]とクリックし、AC Sweepを選ぶとAC解析結果が表示され、(1)と(3)の電圧電流の振幅と位相のグラフが得られます。
解析結果の検討 3種類の求め方により得られた電圧電流のグラフは、ほぼ重なり、求めたラプラス変換式が正しいことが分かります。
SPICEによる確認: RLC直列回路の伝達関数
SPICE回路図ファイル Transient_Response_RLC_Laplace.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
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回路図の作成 前章で作成した回路図ファイルでは、(1)SPICEアルゴリズムによる解析と、(2)数式入力したビヘイビア電源の比較をしました。これに、(3)ラプラス電源を使った解析を追加します。ラプラス電源には、RLC直列回路の回路電流/入力電圧のラプラス変換式1/(Ls+R+1/(Cs))を記述します。
回路は、一番上の段が過制動、二番目の段が臨界制動、三番目が減衰振幅となる定数としています。
Demo版には、状態空間法モデルがついていないので、回路図でX1〜X4の部分は、ディスエーブルとなっています。製品版では、メニューバーにて[Edit]-[Enable All]とクリックしてこの部分をイネーブル状態にして実行してください。
解析の設定と実行 過渡解析とAC解析の設定をします。2番目の数式を使ったビヘイビア電源は、時間領域の計算なので当然AC解析には、使えません。解析実行後現れるダイアログで、TRANSIENTを選ぶと過渡解析結果が表示され、(1)〜(3)の電流のグラフが得られます。波形表示プログラムのメニューバーより[Plot]-[Auto plot]とクリックし、AC Sweepを選ぶとAC解析結果が表示され、(1)と(3)の電流の振幅と位相のグラフが得られます。
解析結果の検討 3種類の求め方により得られた電圧電流のグラフは、ほぼ重なり、求めたラプラス変換式が正しいことが分かります。
SPICEによる確認: 単位インパルス関数と伝達関数()
SPICE回路図ファイル Laplace_Transform_exp-at_sin.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
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回路図の作成  単位インパルス関数のラプラス変換は、「1」です。したがって伝達関数の定義から、ある回路に単位インパルスを入力すると、出力はその回路の伝達関数を逆ラプラス変換したものです。つまり出力波形は、伝達関数そのものを時間領域で表したものになります。この理論の確認を行います。
 まず基準用の減衰振動波形を、ビヘイビア電源で作成します(out1出力)。次にビヘイビア電源に記述した数式を、ラプラス変換し(前章の変換表を使う)、この変換した式を、ラプラス電源に記述します。この電源の入力に単位インパルス関数を入力すると、ラプラス電源の出力(out2)は、入力したビヘイビア電源の出力波形と一致するはずです。

 「SPICEによる確認の前に」で述べたように、単位インパルス関数は次のようにして近似波形を作りました。パルス立ち上がり1ns、立下り1ns、パルス幅1ns、パルス振幅値0.5GV。これでパルス面積が1となります。
 Demo版には、状態空間法モデルがついていないので、回路図でX1の部分は、ディスエーブルとなっています。製品版では、メニューバーにて[Edit]-[Enable All]とクリックしてこの部分をイネーブル状態にして実行してください。
解析の設定と実行 過渡解析を実行します。ラプラス電源を使っているため、ステップ上限値を、解析精度と解析時間の兼ね合いで許容できる範囲で小さく設定します。この例では、0〜30msの解析に対して10usとしています。
解析結果の検討 電圧波形は、ほぼ重なり、求めたラプラス変換式が正しいことが分かります。製品版ではout1とout3の誤差は、さらに小さくなります。
SPICEによる確認: たたみ込み積分と伝達関数 (たたみ込み積分の感覚的な理解のために)
SPICE回路図ファイル Convolution_test_RC1.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
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回路図の作成 上述のように線形時不変な回路に、信号を入力したとき結果として現れる出力信号は、たたみ込み積分を使って求められます。RC直列回路を検討対象回路として、単位インパルス波形を入力した場合(1段目)、振幅1のインパルス波形を周期100usと20usで入力した場合(2段目、3段目)、振幅1の方形波を入力した場合(4段目)について、回路図を併記します。各段は、左より通常のSPICE解析回路、ラプラス電源による解析、状態空間法モデル(製品版のみ)による解析となっています。
解析の設定と実行 過渡解析を実行します。ラプラス電源を使っているため、ステップ上限値を、解析精度と解析時間の兼ね合いで許容できる範囲で小さく設定します。この例では、0〜1msの解析に対して1usとしています。
解析結果の検討  結果の波形は、入力、出力と上下に順次並んでいます。
2段目:その出力波形でピーク値等は入力の近似値に依存している。
4段目:周期100us振幅1のインパルス波形入力に対応した結果で、2段目の波形のピーク値を小さくしたものが連続している。
6段目:周期20us振幅1のインパルス波形入力に対応した結果で、全体形状はより方形波入力時の結果(8段目)に近づいている。まだパルス状の入力であるので、その分、出力波形のピーク値は8段目に比べて小さい。そのピーク値は入力パルスのデューティ比に従って大きさが小さくなっている。
8段目:パルスの間隔が0となり、6段目の結果がさらに細かく足し合わされ、平滑化されたものと見ることができる。
11.3 周波数伝達関数
フィルタ回路  特定の周波数範囲の信号は、損失が無いように伝送し、別の周波数範囲の信号は、減衰させ伝送しないように組まれた2端子対回路を、フィルタ回路と呼ぶ。濾波器(ろはき)とも呼ばれる。

 フィルタは、入力と出力の関係を示す伝達関数により、その特性が示される。伝達関数が、ラプラス変換のs(複素周波数)で表される有理関数の場合をアナログ・フィルタ、z変換のzで表される有理関数の場合をディジタル・フィルタという。
当然ここで扱うのは、アナログ・フィルタのみである。

 アナログ・フィルタは大きく、パッシブ・フィルタとアクティブ・フィルタに分類される。
パッシブ・フィルタは、受動素子(抵抗、インダクタ、キャパシタ、トランス)のみで構成される。アクティブ・フィルタは、能動素子(OPアンプ(演算増幅器)やトランジスタなど)と受動素子をうまく組み合わせてより高性能化したものである。
当然ここで扱うのは、パッシブ・フィルタのみである。
周波数伝達関数
 最も簡単な例として、RL直列回路を考える。以下の図(a)と図(b)を2端子対回路として、入力電圧と出力電圧の比をとった伝達関数(電圧比伝達関数)は、それぞれ下記式で表される。

(a) Lの両端を出力とした場合
(a) Rの両端を出力とした場合

図(a)の伝達関数は

周波数特性のみを調べるために、s=σ+jωにおいてσ=0とし、上式をs→jωと置き換える。
明確に示すために、s→jωと置き換えた伝達関数を、周波数伝達関数と呼ぶ場合もある。

 (τ:時定数)
ここで、ω=ωcのときに、

となる。振幅が最大値の約70%(-3dB)となる周波数ωc(または一般的にはfc=ωc/2π)を、遮断周波数(カットオフ周波数)と呼び、周波数選択の目安としてよく使われる。
上記、H(jω)とθをボーデ線図(横軸:周波数、縦軸:振幅および位相)で描くと図(c)と図(d)のようになり、これはハイパス・フィルタ特性を示している(図はクリックで拡大可能)。
定性的に説明すると、低い周波数の信号はインダクタを通って出力側に流れるが、高い周波数の信号はインダクタにより阻止されるという動作である。

図(c) ハイパス・フィルタ振幅特性
図(d) ハイパス・フィルタ位相特性

図(b)の伝達関数は

(τ:時定数)
ここで、ω=ωcのときに、

となる。こちらもωc(または一般的にはfc=ωc/2π)は、遮断周波数(カットオフ周波数)と呼ばれる。
上記、H(jω)とθをボーデ線図(横軸:周波数、縦軸:振幅および位相)で描くと図(e)と図(f)のようになり、これはローパス・フィルタ特性を示している(図はクリックで拡大可能)。
定性的に説明すると、低い周波数の信号はインダクタを通して接地側に流れ、高い周波数の信号はインダクタを流れにくいので、出力側に現れるという動作である。

図(e) ローパス・フィルタ振幅特性
図(f) ローパス・フィルタ位相特性

フィルタ回路の周波数特性による種類分け
フィルタ名
周波数特性概略
振幅の周波数特性例
(グラフは、すべて両対数グラフ)
ロー・パス・フィルタ
(低域通過濾波器)
Low-pass filter, LPF
信号の低い周波数成分を通過させ、高い周波数成分は抑制される。
ハイ・パス・フィルタ
(高域通過濾波器)
High-pass filter, HPF
信号の高い周波数成分を通過させ、低い周波数成分は抑制される。
バンド・パス・フィルタ
(帯域通過濾波器)
Band-pass filter, BPF
信号の特定の周波数成分を通過させ、他の周波数成分は抑制される。
バンド・エリミネーション・フィルタ(帯域阻止濾波器)
Band-elimination filter, BEF
信号の特定の周波数成分のみを抑制し、他の周波数成分は通過させる。

その他として、オール・パス・フィルタ(振幅は変更無く、位相のみ変化させる)や、くし型フィルタ(ある周波数間隔で複数の帯域を通過させる)などがある。
SPICEによる確認: 受動素子で作る4種類のフィルタ回路
SPICE回路図ファイル Passive_4_filters.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
クリックで拡大
回路図の作成  R,L,C受動素子で、ローパス・フィルタ、ハイパス・フィルタ、バンドパス・フィルタ、バンド・エリミネーション・フィルタを構成します。入力信号は、周波数特性を調べるだけなので、AC信号のみとします。
加えて、電圧比伝達関数をインピーダンス比から求め、ラプラス電源に記述します。
解析の設定と実行
(AC解析)
信号源の周波数を1Hz〜100kHzとスイープさせ、出力電圧の振幅と位相を観測します。
出力変数は、出力ノード名をout1とすると、電圧の振幅値がDB[V(out1)]またはVDB(out1)、位相がP[V(out1)]またはVP(out1)と記述します。
解析結果の検討 SPICEで通常のフィルタ回路を作成して、AC解析した結果と、伝達関数表示したラプラス電源にAC信号を入力して解析した結果が、まったく一致していることが確認できました。
AC解析だけの場合は、ラプラス電源を使用しても、シミュレータへのストレスはほとんどなく、短時間で解析が終了することがわかります。これは解析アルゴリズムの違いによります。
11.4 過渡現象と複素周波数
伝達関数の概念を使った回路解析の例
(クリックで拡大)

上図において、t=0でスイッチを閉じたときに流れるi(t)を求める。ただし、t<0では、i(t)=0Aとする。

電源から右側をみた負荷インピーダンスを複素周波数 s で表すと、

伝達関数を求めると、
-----(11.6)


極は、分母の式(特性方程式)を0とおいて、s=-50とs=-5である。
ラプラス変換表(表10-1)を思い出し、

部分分数展開できることを考慮すると、過渡応答(自然応答)は、以下の式で表される。
(A, Bは任意定数) ------(11.7)

ここで、11.2節の「過渡現象における電圧電流の瞬時値とフェーザ表示の対応」より、入力信号を複素周波数表示すると、

となる。したがって、定常応答(強制応答)は、E(s)=1およびH(s)にs=-1+j2を代入して

よって、
-----(11.8)

したがって、完全応答はt>0にて

任意定数A,Bを決定するには、初期条件が二つ必要である。
t<0で、i(t)=0Aという条件より、
-----(11.9)

および、インダクタL2の両端電圧=0より

したがって、
-----(11.10)
式(11.9)と(11.10)より順次以下のように計算して、AとBを求める。

ここで、di/dtを計算するために、三角関数の加法定理にて展開する。


これをtで微分して、





(この結果の確認を、以下の「SPICEによる確認」で行っている。)

過渡現象の解析方法のまとめ

 回路方程式は、1階または2階の微分方程式で表されるが、そのまま微分方程式を解くのは大変(第9章)なので、ラプラス変換を使う(10章)と変換表を利用すれば、代数方程式として解くことができるようになる。
また、伝達関数の概念(本章)を使うことにより、ラプラス逆変換できるようにするための代数式操作のわずらわしさを避けて、解を求めることができる場合もある。


単エネルギーまたは複エネルギー回路 *1
蓄積エネルギー駆動
外部電源駆動
回路方程式 *2
(1階または2階定数係数
線形同次微分方程式)
回路方程式 *2
(1階または2階定数係数線形非同次微分方程式)
← *4
微分方程式
の解法 *3

ラプラス変換
微分方程式
の解法 *3

ラプラス変換
伝達関数
*5
ラプラス
逆変換
ラプラス
逆変換
過渡解のみ
過渡解 +定常解
時間領域
複素周波数領域
から時間領域に戻す
時間領域
複素周波領域
から時間領域に戻す

*1 単エネルギー回路:インダクタとキャパシタのいずれかが一つのみが含まれて、他に1個以上の抵抗で構成された回路。
複エネルギー回路:インダクタとキャパシタの両方を含み、他に1個以上の抵抗で構成された回路。あるいはインダクタ2個またはキャパシタ2個と、1個以上の抵抗で構成された回路。ただし後者のとき、インダクタとキャパシタ同士の直列・並列接続の場合(1個とみなせる)は含まない。
*2 単エネルギー回路の場合は、1階の微分方程式となり、複エネルギー回路の場合は、2階の微分方程式となる。
*3 2階の微分方程式の場合、特性方程式を求め、微分方程式を解く。
*4 完全な回路方程式を立てたものをラプラス変換するのではなく、sによるインピーダンスまたはアドミッタンス表記を求めただけで、伝達関数を得られる場合がある。
*5 インダクタやキャパシタに初期エネルギーの蓄積がないときにのみ、そのまま伝達関数による回路解析ができる。
SPICEによる確認: 伝達関数の概念を使った回路解析
SPICE回路図ファイル Example_Problem_using_TF.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
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回路図の作成 左上の回路図は、スイッチは省略していますが11.4節の回路図そのものです。
その下の回路図は、11.4節で得られた結果の電流 i の式をビヘイビア電源に記述したものです。
右上のブロックは、ラプラス電源の状態空間法モデルに、左上の回路の伝達関数である式(11.5)を入力したものです。
信号源E1は、ビヘイビア電源を使っています。
なお、これまでと同様に、Demo版には、状態空間法モデルが付属されていないので、回路図でX1の部分は、ディスエーブルとなっています。製品版では、メニューバーにて[Edit]-[Enable All]とクリックしてこの部分をイネーブル状態にして実行してください。
解析の設定と実行
過渡解析の設定を、1msステップで最終時間5sまでとします。また、カット&トライになりますが、ラプラス電源の精度確保のため、最大時間ステップ間隔を1msに制限して、計算精度が落ちないようにします。
解析結果の検討 波形グラフの2段目が、それぞれ、SPICEの過渡解析アルゴリズムによる電流波形I(L2)、微分方程式の解の式による波形I(R3)、および回路の伝達関数をラプラス電源に記述した結果の電流波形I(R4)を表示しています。
3つとも誤差なく一致しています。

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